「『人生100年、80歳現役社会』創造フォーラム」を開催

2019年131日(金)、「人生100年時代を迎えて人事部門はどう変わるべきなのか?〜『終身雇用』から『終身知創』の時代へ〜」をテーマに、日本CHRO協会・多摩大学大学院・ライフシフト大学共催による「『人生100年、80歳現役社会』創造フォーラム」を開催しました。当日は企業の人事責任者や将来の働き方に関心のある方など約80名が参加。一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏、多摩大学大学院研究科長・弊社CEOの徳岡がそれぞれ講演を行いました。その抄録をお届けします。

 

共感のリーダーシップ−「人生100年時代の終身知創」−

一橋大学名誉教授 野中郁次郎氏

 

  • 「人間の質感」が失われていることへの危機感

2019年7月、世界の経営学者、経済学者、政治家、企業家など約300人が参加した「新啓蒙」会議で、これからの経営は何を核に進めていくかを議論しました。その結論として示されたのが「株主価値最大化の否定」「顧客第一主義」「従業員の復権」でした。また8月には、米国の経済団体であるビジネスラウンドテーブルが「株主第一主義を撤廃する」と宣言しました。なぜこのような動きになってきたのでしょうか。

現象学で知られるフッサールは、第1次世界大戦後の西欧の危機について「日常の数学化」によって人間の質感が失われているのではないかと主張しました。我々が見ているリアリティは、感覚的で主観的な「質」の世界です。これが科学になると、数式による「量」の世界になり、生き生きとした意味がなくなってしまう。だから我々は、もう一度原点に帰る必要がある、というのです。実は現在も、そのような危機を迎えているのではないかと思います。今の日本的経営の危機も、現代における3つの過剰(過剰分析・過剰計画・過剰規制)による、生き生きとした経験や意味、価値の喪失がもたらしたものだといえます。

  • 知識創造は「共感」から始まる

80年代、ジャパン・アズ・ナンバーワンの頃の日本のイノベーションを緻密に分析した結果、出来上がったのが、組織的知識創造理論の一般原理であるSECIモデルです。最初にあるのは共感です。徹底した議論による全身全霊の共感から本質が得られます(共同化)。それを徹底的に言語化し、概念をつくります(表出化)。次に、その概念と他の知をつないで理論にします(連結化)。そして、それを実践でやり抜きます(内面化)。このスパイラルによって、知がまさに自己増殖していくのです。最も重要なのは共感です。共感がなければ集合知にはなりえなません。

知識創造の本質は、暗黙知と形式知のスパイラルです。知識の最大の特質は、人が他者との関係性の中で共創するダイナミック・プロセスであり、他者との関係性の中で新たな意味や価値をつくっていくということです。知ることは、個人的なコミットメントが不可欠です。信念がなければ新たな意味や価値は作れませんが、同時に理性がなければ普遍になりません。信念と理性、主観と客観、アートとサイエンスをダイナミックに回していくことによって知は生み出されます。このことを、もう一度我々はやらなくてはいけないということです。

  • 企業戦略は「物語(ナラティブ)」でなければならない

企業の戦略は「物語(ナラティブ)」でなければならないと思います。戦略とは、「共通善」を掲げその実現を志向する人間の「生き方」の物語ではないでしょうか。一人ひとりの生き方を、相互主観を媒介にして組織の客観へと昇華し、新しい現実を共創する集合的な意味づけ・価値づけの行為です。

ナラティブはプロット(筋)とスクリプト(台本:筋を実行する行動指針)で構成されます。プロットはわくわくし、スクリプトは腹にガツンとくる生々しい言葉でなければ行動を呼び起こしません。スクリプトは、実践を通じて組織を形づくる「型」となり「制度化」されます。この「知の型」は、個人や組織がもっている思考・行動様式のエッセンスであり、現場からのフィードバックによる自己革新プロセスが組み込まれた「クリエイティブ・ルーティン」です。クリエイティブ・ルーティンは、相互主観的な意味体系である「制度」の基盤となり、実践を通じて新しく意味づけされ変化していきます。そして、変化のただ中で、絶えず新しい知をつくり続けていくのです。

  • 「二項動態の経営」が組織的イノベーションを可能にする

「暗黙知と形式知」「感性と知性」「アナログとデジタル」「安定と変化」は相互補完関係にあり、分離することはできません。それぞれが相対立する矛盾を含んでいるからこそ、創造性が生まれるのです。したがって、二項対立ではなく二項動態として捉え、その中で双方を両立させ、全体の調和を追求すべきです。双方がうまく調和するバランスは、現実の問題と直接向き合い、仲間と共に一生懸命試行錯誤することで見えてきます。このダイナミックで変化に富む「二項動態の経営」を実践することで、組織的イノベーションが可能になります。

そのために組織のリーダーは、知的バーバリアン、知的体育会系であるべきです。我々は分析過剰になりすぎています。もっと生きる本能、野性の側面を復活させるべきでしょう。

 

「人生100年時代のライフイノベーション」

多摩大学大学院研究科長 株式会社ライフシフトCEO 徳岡晃一郎

 

  • 社員をいかに「社会資産」にしていくか

ライフシフトとは、人生100年時代に80歳まで現役で活躍するために、生き方を変えるということです。

シニアになると、人事制度上の“崖”が迫ってきます。55歳になると役職定年になり、60歳で定年となり、再雇用で契約社員になって、65歳になると何もなくなってしまいます。80歳まで現役で活躍するためには、今から準備を始める必要があります。

今後1020年程度で雇用者の約半分の仕事が自動化される可能性が高いといわれています。一方、日本では人口がどんどん減少していきます。このような中で年を取っていく我々は、80歳までどうやって働き続けるか、真剣に考えざるを得ません。企業は、社内に社員を「企業資産」として抱えるよりも、社会との交わりを増やし社会のために貢献する人づくりを行い社員を「社会資産」にしていくかを考える必要があります。

  • ライフシフト時代の要は「知の連続再武装」

人生が伸びる分、いろいろなことにチャレンジするマルチステージ型の人生が可能になります。大切なのは、自分の人生をどう創っていくかということです。その際に欠かせないのが、自分自身のアップデートです。体験し、学習し、蓄積し続けなければ、長い人生を乗り切ることは難しくなります。

ライフシフト時代の要は、「知の連続再武装」です。一つのスキルでずっと活躍できるということは多分ありません。時代が変われば、技術も変わるからです。したがって、30代の時には40代にどうするかを考え、40代の時には50代にどうするかを考える、というように、目前の競争戦略と同時に人生の成長戦略も描いておくことが重要になってきます。

最終的には、誰もが「一人事業主」になりますから、自分自身の経営者になる必要があります。そのためにも、未来を創造するビジョンが大切です。特に日本は社会課題先進国ですから、視点を高くして、大きな目標、根源的な目標を考えてほしいと思います。大きな目標を掲げて実現するために、多摩大学では「イノベーターシップ 現実を変革する思いと実践知」を掲げて、学びの場を提供しています。

  • 「変身資産」を磨き、長く働ける基盤をつくる

人事においてこれから重要になるのは、シニアの職務開発です。役職定年になると、職場に放っておかれるケースが散見されます。しかし、しっかりと知を積み重ねてきていれば、いろいろなことができるはずです。例えば、その道の専門家、職人として自分の貢献領域を確立する「レジェンド」、人的ネットワークや人間関係力で、顧客や組織内でのノウフー、ノウハウの達人、サポーターとなる「コネクター」、第一線の若手では賄いきれない案件を中長期的視点で扱う「イノベーター」などです。

このように活躍するには「変身資産」を磨くことが必要です。我々は、変化の激しい時代に対応すべく変化し続けなければなりません。また、競争の時代には、助け合ってこそ価値が生まれます。さらに、人生100年を視野に、長く働ける基盤をつくる必要があります。そのために、①オープンマインド、②知恵、③仲間、④評判、⑤健康の5つを伸ばすためのリカレント教育の場をライフシフト大学は提供します。

人生100年時代に向けて、一人ひとりのライフイノベーションを促進する人事施策への転換が組織の持続的成長のカギです。企業にはぜひ、終身雇用から終身知創へ、社員が社会資産としてアップデートしていくためのきっかけを与えていただきたいと思います。