2024.06.07

【連載コラム No.2】フロイトvs.トクオカ  ~「無意識」、「夢判断」、「ベテラン」、「イノベーターシップ」~

 
 
さて、前回は「ニーチェ対トクオカ」をライブ中継でお届けしたわけですが、
今回、弊社大会長トクオカが相対するのはニーチェと並び称される大哲学者にして大心理学者フロイト!
 
 
 ニーチェは1900年に没していますが、同年は奇しくもフロイトの代表作である「夢判断」が世に出た年でもあります。
 フロイトは生活のために研究の道を諦め、小さな精神科病院を営んでいた。
街のお医者さんです。では、なぜそんな彼が世界で知らぬ人のいない存在となったのか。
一言でいえば「無意識」の発見です。
 
 
 「無意識」とは、生まれてこの方、経験してきた様々な葛藤、
それを意識の遡上に上らせないように圧力釜よろしく押し込めてある場所。
フロイトはこの「葛藤」の根本をすべて「性的欲望」に求める「汎性欲主義」をとなえたのですが、
フロイトの評価はこの点を受け入れるかどうかに大きく左右されます。
 
 
 さて、ここではこの点はとりあえず棚上げして議論を進めましょう。
フロイトは「夢」をその人の無意識の発露だと考えました。「夢判断」ですね。
 
 
 また、重要なことは、
フロイトは患者に過去の無意識に閉じこめられた経験を語らせることで(当初は催眠療法を使っていました)、
ヒステリー(当時はあらゆる精神疾患が十把一絡げに「ヒステリー」とされていました)症状の治療にあたっていました。
無意識の意識化によって症状が快癒することもあったのです。
 
 
 ここでトクオカ選手の入場です。
トクオカは企業の革新におけるベテランの役割に大きな関心を寄せています。
これはおそらく世の一般的な考えではない。
若い頃は柔軟性も創造力があるがある程度経験を積むと自分の殻を破れなくなる、と。
 
 
 ここで「無意識」の概念を援用してみましょう。
社会人として生きていく過程で誰もが様々な葛藤を経験します。
会社の在り方に反発する気持ちもあったでしょう。
保守的な上司にアイデアをつぶされたこともあったかもしれない。
しかし、そういった葛藤を表立って口にすることはプラスにならない。
だから無意識の領域に押し込んでいく。
このように形成された葛藤の集合体である組織人としての無意識はおそらくイノベーターとしての潜在力を
(本人の意識とは関係なく)抑制しているのではないか。
 
 
 トクオカはキャリアの棚卸の重要性を強調します。
棚卸はこれまで身に着けてきたスキルや業績を振り返るにとどまりません。
ココロの奥底に閉じ込めてきた創造性や希望を解放する作業でもあるのです。
 
 
 ここでトクオカはフロイトの臨床治療にきわめて似た方法をとります。
研修においてベテランの方々に「職務波乱万丈記」を書いてもらうのです。
書くことによって無意識に封印してきたことが顕在化します。
人生のまったきストーリーとタイトルを書いてもらうのも同じ狙いです。

 
 
過去の葛藤の原因となった会社の過去の在りようは今大きく変貌しつつある。
いや、変貌しなければならない。
無意識の蓋をはずして若い頃思い描いた創造を意識に戻す。
この作業はトクオカのいう棚卸のエッセンスであり、ベテランの活躍の可能性を大きく広げるのではないかと思うのです。
 
 
「ベテランズロール」。
トクオカのこの言葉とその実践を掘っていくとそこにはフロイトがいた。
両者の邂逅はきっと企業の明日を切り拓いていくと思います。
 
 
二人の時空を超えた対談企画なんて面白そうだなぁ。
きっと意気投合しますね。

藤井敏彦

藤井敏彦

株式会社ライフシフト ストラテジック・アドバイザー

1964年生まれ。87年、東京大学経済学部卒業。同年、通商産業省(現・経済産業省)入省。94年、ワシントン大学でMBA取得。通商、安全保障、エネルギーなど国際分野を中心に歩き、通商政策課長、資源エネルギー庁資源・燃料部長、関東経済産業局長、防衛省防衛装備庁審議官、国家安全保障局(NSS)内閣審議官などを歴任した。2000~04年には在欧日系ビジネス協議会の事務局長を務め、日本人初の対EUロビイストとして活動するなど、豊富な国際交渉経験を有する。NSSでは経済班の初代トップとして、経済安全保障推進法の策定などに携わった。主な著書に『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)など。