2023.04.05

【連載シリーズ】大人の学びコラム 第四回「タンク」が問いかけるリスキリング再考

  
 こんにちは。
年度も改まり皆様気分一新頑張っておられることと存じます。
今月のLSエッセイも皆様の中に横たわる定式と常識を旬な弾丸でスナイパーFが狙い撃ち!
もちろん身体の安全には別条ございませんのでリラックスして最後までお付き合いくださいませ。
  
 

 さて、今回ご登場願うのはタンクさん。
 
「た、タンク?」。そう、タンクです。
ロシア・ウクライナ戦争で世界が注目する最重要兵器のタンク。戦車です。
ウクライナがロシアに占領されている領土を回復するには絶対に必要な兵器。
ドイツが国際世論に押される形で世界最強の呼び声の高い最新式戦車をウクライナに供与したことも話題になりました
(ドイツはついに第二次世界大戦のトラウマを脱したのか、という側面からも)。

  
 
 「え、わかるけど・・・。リスキリングの話じゃなかったの?」
大丈夫、現在皆様を載せたLSロケットは現在スキリング軌道に向けて安定上昇中です。
あ、でも、ウクライナ軍が外国兵器を使いこなせるようにするための「リスキリング」の話に入っていこうというわけじゃありません。
もちろん、それはそれで国の命運、民主主義の将来をかけた壮大な軍事的リスキリングの実例として重要ですし、
のちのち様々な研究の対象になることは間違いないのですが。

  
 
 さて、タンクです。
みなさま、タンクが実戦に投入された最初の戦争をご存じですか?
答えは第一次世界大戦です。
 
では、戦車を最初に開発し実戦に使用した国はどこでしょう?
イギリスです。
ちなみに戦車が「タンク」と呼ばれるのはイギリスが戦車を「ウォータータンク」に偽装してドーバー海峡を輸送したことに由来します。
戦車とは砲を持ち、装甲で防備され、そして何よりもキャタピラで動く攻撃車両です。
第一次世界大戦の欧州戦線は塹壕戦でしたので、
キャタピラをもった戦車は敵の塹壕を乗り越えて進軍できた、当時の画期的新技術でした。
  
 

 ここからが考えどころです。
「戦車」の構想はイギリス以外の国にもありました。
技術的にもドイツにしろ、フランスにしろ、決断さえすれば製造可能だったことは間違いありません。
しかし、そうしなかった。
いや、できなかった。何故でしょう(1分考えてみてください)。

  
 
  
 

 答えは組織的抵抗です。
当時の陸軍の花形といえば騎兵です。陸軍の幹部はほとんど騎兵出身。
その騎兵をないがしろにするような兵器に彼らは関心を示さなかった。

敵意さえ持った。じゃ、イギリス陸軍は例外的に開明的だったのか?
これもノーです。
イギリス陸軍は提案された戦車構想を正式に却下しています。
それが、なんと偶然、当時の海軍大臣、陸軍じゃなくて「海軍」大臣。
  
 

後の首相となるチャーチル大臣の耳に届きます。
チャーチルは構想した陸軍少佐に一度だけデモンストレーションの機会を与えます。
デモンストレーションといったって予算はゼロ。
考えた末に当の陸軍中佐はアメリカから中古の耕運機を輸入します。
キャタピラを装着した耕運機。
  
 
そして、その耕運機が塹壕を超えていくのを見たチャーチルは
なんと戦車を「陸の戦艦」というプロジェクトに仕立て海軍予算をつける決定をします。
その成果が第一次世界大戦で実践投入されたのです。
戦車はイギリス陸軍の先見性の産物でもなかったというわけです。
むしろ「しがらみ」のない海軍が戦車の開発を行ったというところがミソです。

  
 
  
 
 さて、「リスキリング」です。
現代風に言えば、当時、タンクという新技術、
そしてそれを使った新戦術について各国陸軍幹部の「リスキリング」ができなかった
ということになります。
  
 
 では、タンクについてのリスキリングは
単に軍のミドル層に新技術について教育すればよかったのか。
ちがいます。
技術的な優位性を各国陸軍は理解していた。
頭ではわかっていた。それでも足が動かなかった。動かしたくなかった。
新しいものへの不信感であり、騎兵としてのプライドであり、
勝利へのシナリオの共有の失敗であり、戦争の未来像への想像力の欠如であり・・・。

人の性(さが)と言ってもよいかもしれない。
  
 
 さて、リスキリング、あるべきリスキリングについて考えてみてください。
DXは現代版戦車かもしれない。
でも、DXの技術、プログラミングを教育すれば事足りるのでしょうか。
現代版「騎兵」を自認する経験豊かなミドル層にデジタル技術のリスキリングだけ行ったとしても・・・。
もしかしたら戦車物語の再生産に終わってしまうのではないでしょうか。

  
 

 組織が自らを変革していくためのリスキリングとは?
この問いはここでは問いのままにしておきましょう。みなさん考えてみてください。
そして弊社会長徳岡の著書「リスキリング超入門」に目を通してみてください。
  
 
 人間とは自分の経験を頼みに判断をするもので本来革新など望まない。
その性を変えることがリスキリングの本質です。
戦車の顛末を下敷きにして「リスキリング入門」を読んでみてください。

理解がより深まると思うのです。
  
 
 ということで今回は教科書のアンチョコでした~!
では、また来月。

藤井敏彦

藤井敏彦

株式会社ライフシフト ストラテジック・アドバイザー

1964年生まれ。87年、東京大学経済学部卒業。同年、通商産業省(現・経済産業省)入省。94年、ワシントン大学でMBA取得。通商、安全保障、エネルギーなど国際分野を中心に歩き、通商政策課長、資源エネルギー庁資源・燃料部長、関東経済産業局長、防衛省防衛装備庁審議官、国家安全保障局(NSS)内閣審議官などを歴任した。2000~04年には在欧日系ビジネス協議会の事務局長を務め、日本人初の対EUロビイストとして活動するなど、豊富な国際交渉経験を有する。NSSでは経済班の初代トップとして、経済安全保障推進法の策定などに携わった。主な著書に『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)など。