2023.05.15

【連載シリーズ】大人の学びコラム 第五回 生成AIとリスキリングの関係を熟考する(前半)

 読者のみなさま、ご無沙汰しております。
ご機嫌麗しくいらっしゃいますでしょうか。
わたくし、GW直前に不覚にもぎっくり腰を患いまして、
本原稿、激痛のあまり遠のいていく意識をかろうじてつなぎとめながら練りました。
ありがたくご拝読くださいませ(ホントーに痛かったです)。
  
 
 

 さてさて、衆生の移り気の早さは世の習い。
あのweb3もチャットGPTの影に隠れてしまいました。メタバースは今何処に・・・。
ということで時流に遅れてはならじ。
注目の新技術、生成AIを取り上げます。
望遠、接写のレンズを切り替えながらのライフシフト流で皆様の頭の中を脱構築してまいります。

 
 
 大規模言語モデルを使った生成AIはまだ黎明期。
今後加速的に性能を向上させていくでしょう。
文学好きの友人がチャットGPTに「虫になったカフカのつもりで嬉しいこと、つらいことを述べよ」と
お題を出したら驚くほど質の高い回答があったとのこと。
(「虫になったカフカ」と言われて??な諸兄はπ型ベースをちょいと広げましょう)。

 
 
 まずGPT(Generative Pretrained Transformer)とは何か。
技術の根本は従来の機械学習(マシンラーニング)であることに変わりはありません。
したがって虫となったカフカの苦難についてGPTが自ら語っていることの「意味」を理解しているわけではありません。
「意味を理解して表現する」AIが登場したわけではありません。ここはまず押さえておきましょう。
ただし、脳のニューラルネットに近いアルゴリズムが開発され機械学習と連接されることにより機械学習の「パターン認識」に加え「推論」能力が飛躍的に高まりました。
「生成」と言われる背景です。

 
 

 次に大規模「言語」モデルという点の含意です。
生成AIは学習した言語に規定されます。
例えば、チャットGPTは圧倒的に英語テキストを学習していますから、
英語で質問する方が日本語で問いかけるよりもはるかに充実した回答が得られます。

 
 同様に、例えば、アリババはチャットGPTを凌駕する高性能生成AIの開発に成功したと発表していますが、
おそらく中国語テキストを学習しているはずです。そうすると、簡単に言えば尖閣問題にどう答えてくるか、ですね。
生成AIは特定の自然言語を大規模に学習して能力を高めていきますので
その言語を話す人々の共通認識なり文化なりが回答に反映されることになります。

 
これを「バイアス」と言ってよいかどうかは微妙ですが、
日本人が生成AIを使うときには留意しておかねければならない点かと思います。
話者の多い英語、中国語、スペイン語あたりが大規模言語モデルのAI を使うには有利になるのでしょうか。
生成AIが文化や政治といったものと無関係ではないことは使用上の注意点です。

 
 

 さて、本題のリスキリングとの関係です。
生成AIは恐らく今後多くの技術スキルを不要にしてしまいます
例えば言語で成り立っている法律関係のスキル。
将来はプログラミングもこなすようになる可能性が高いと思います(異論もあります)。
言語でこういうシステムをと注文すれば生成AIがプログラミングしてくれる。
だとすれば、プログラミング教育の必要性も吟味されることになるでしょう。

 
これらは一部の例にすぎません。
広く生成AIとの関係で「必要なスキル」そのものが見直され、
当然リスキリングのプログラムも変化していく
ことは間違いありません。
 
 
 言い方をよりピンポイントにしましょう。
生成AIの最大のインパクトはホワイトカラー労働の多くを不要にしてしまうことにあります。
カフカでさえ学んでいるのですから、業界情報は知悉しているでしょう。
社内向け、顧客向けの説明資料やプレゼン資料の作成などが自動化され、
かつ一瞬で少なくともある程度の水準のものが用意されてしまう。

 
 
 製造工程の自動化はロボット産業を生み出すなど新しい産業の誕生とセットでした。
しかし、生成AIは少数の天才が作成しアプリとして提供されますから
「生成AI製造業」が多くの新規雇用を提供するとは考えにくい。
 
 
 すでに、海外の美術展でAIが描いた絵が最高賞を受賞したりしています。
絵という視覚芸術分野にとどまらず、
言語の領域に強い推論能力を備えたAIが登場するということは次元のちがうインパクトが想定されます。
 
 
 多くの社会人が生成AIと生存競争をしなければならない時代の幕開けです。
もちろん、ライフシフトが設定する問はそのような時代のリスキリングの在り方です。
結論を先取りしますと、新しいリスキリングは「生成AIではできないこと」をできる能力の涵養が中心になるのではないか。
では、生成AIではできないこととは何か?これ自体簡単な問ではありません。
 
 
 次回、弊社会長徳岡が語る「戦略的学びなおし」を参照しつつ
「with 生成AI」時代のリスキリングについてさらに掘り下げてまいります

 
 
どうぞご期待ください。

 

株式会社ライフシフト ストラテジック・アドバイザー

株式会社ライフシフト ストラテジック・アドバイザー

藤井敏彦

1964年生まれ。87年、東京大学経済学部卒業。同年、通商産業省(現・経済産業省)入省。94年、ワシントン大学でMBA取得。通商、安全保障、エネルギーなど国際分野を中心に歩き、通商政策課長、資源エネルギー庁資源・燃料部長、関東経済産業局長、防衛省防衛装備庁審議官、国家安全保障局(NSS)内閣審議官などを歴任した。2000~04年には在欧日系ビジネス協議会の事務局長を務め、日本人初の対EUロビイストとして活動するなど、豊富な国際交渉経験を有する。NSSでは経済班の初代トップとして、経済安全保障推進法の策定などに携わった。主な著書に『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)など。