【連載 コラム No.9】哲学ってイノベーターシップ/リスキリングに役立つの?

哲学者とは。哲学とは。
歴史を通じて哲学者と呼べる人はごくごく少数です。考えに考えて徹底的に考えて「世界」とは何か?「人間」とは?「存在」とは?といった普通の人があえて問わない問いを問い、呻吟しそこから新しい世界観を生み出す、その世界観こそ哲学です。哲学は歴史・世界のありよう、人々の生き方の下敷きになってきたのです。
でも、世の中の大学にはそれなりに哲学の先生がいらっしゃると思うけど・・・。そのとおりです。でもそのような先生の大多数のお仕事は「哲学解説者」、「哲学コメンテーター」とでも呼ぶべきものです。先人の哲学者が打ち出した世界観の深淵を我々のような素人さんに分かりやすく教えてくださるありがたい存在でもあります。逆に言えば「哲学者」と彼らが紡ぎ出した「哲学」は極めて稀なものであるということです。その叡智から何かを汲み取ることはきっとあなたの人生をより豊かなものにしてくれるにちがいありません。
イノベーターシップとリスキリングは哲学的行為である
これまでの復習を兼ねて話を進めていきましょう。プラトンは、真の存在、理想の世界と現実の世界は分かれていると考えます。前者をイデア界と名付けます。プラトンの「二世界論」ですね。プラトンによれば我々が観ている世界はすべてまがいもの。欠陥だらけ。なぜそれがわかるかと言えば、人は生まれてくる前にイデア界でホンマモンを見てきているからだというのがプラトンの考えです。目の前にある世界の不完全さ。それに気づき理想を求めて事業を起こす。これぞイノベーターシップの駆動力そのもの!イノベーターは現代のプラトン主義者なのです。
プラトンの弟子はアリストテレスでした。アリストテレスも理想形の存在には同意します。彼はそれを「純粋形相」と呼びました。ただ、「純粋形相」がまずあり、その劣化コピーとしての現世界がある、とは考えませんでした。アリストテレスは、真実の基は現世界にあり、それが積み重なって純粋形相の高みに到達するのだと考えました。プラトンがトップダウン。アリストテレスはボトムアップです。ボトムアップで今ある建物をさらに天上に目指して建て替えていくために必要なことは・・・。そうですリスキリングです!既に経験を積んできたあなた、新しい工法をわが物にすることでご自身が育んできた土台の上に天上の純粋形に届く夢を実現しましょう。過去を肯定しそして未来への野心を失わない。リスキラーは現代のアリストテレスなのです。
あなたはカントニアン
時は下り。カント。カントは、人は「モノ自体」(世界の真の在りよう)を見る(認識する)ことはできないと言いました。主著「純粋理性批判」で述べた人間理性の限界ですね。さらにカントは続けます。世の人はまず対象あり、人はそれを認識している、と考えている。しかし、それは間違いである。逆である。我々の認識方法が対象の見え方を決めているのだ。「対象に認識が従う」のではなく、「対象が認識に従う」のだ。カント自画自賛の「コペルニクス的転回」でした。では、世界の真の姿を認識できない人間がどうして「共通認識」を持てるのか。それは人間の認識方法が共通しているからだ(共通のメガネ論)と議論を展開しました。
つまり、メガネを変えれば異なった世界が見えるということです。イノベーターもリスキラーもメガネの新調をしようとしている人なのです。他の人とはちがう世界の姿を見るためです。つまり「常識」や「思い込み」の領域から足を踏み出すのです。なぜなら世界は認識に従うのですから。そう、この駄文を読んでくださっているみなさんはカントニアンです。
ライフシフト時代によりよく生きるために
どうでしょう。哲学者ってやっぱりすごい人と思いませんか。イノベーターシップやリスキリングで、世の中や自分のこれまでを違った目で見て、世の中を変える、自分を変えること。それはすなわちプラトンやアリストレス、カントらの哲学者たちがやっていることと同じことなのです。
自分の認識をきちんと持つことで、世界に対して自分がどう貢献したいのか、自分自身をそのためにどう変えていきたいのか、より積極的に世界と向き合うことができる。そういう営みなしでは、せっかくのライフシフト時代(人生100年時代)に人生がもったいないのではないのではないでしょうか。みなさん哲学は有益ですよ!