今注目のwell being(ウェル ビーイング)とは?一人一人がウェルビーイングを考える時代へ
ウェルビーイングが社会の中で注目されている理由
健康経営や従業員のメンタルヘルスの問題が企業の課題として取り上げられるようになり、
最近では「ウェルビーイング経営」という言葉も見聞きするようになりました。
とうとうビジネスの領域においても「ウェルビーイング」が広く浸透してきました。
日本経済新聞は2022年をウェルビーイング元年としました。
参画企業とともに「日本版Well-Being Initiative」を創設し、
GDPとは違う新しい世界の尺度「GDW(Gross Domestic Well-being)」を共同研究し、
物質的な豊かさだけでなく、既存のGDPでは測ることのできなかった精神的な豊かさ(主観的ウェルビーイング)の新指標開発や、
ウェルビーイング経営の推進を目指していくというものです。
経済成長の頭打ち、お金・規模の価値を重視する資本主義経済から
人的資本に着目したソーシャルネットワーク時代への変遷を考えると必然的な流れとも言えるかもしれません。
個人レベルで考えても、特にコロナ禍の2020年以降、
テレワークを取り入れたハイブリッドワークに代表されるような本当の意味での働き方改革が急ピッチに進み、
一人一人のライフスタイルもシフトしていきました。
と同時に従来の価値観が大きく揺らぎ、
自分や家族の本質的な幸せについても主体的に考えていこうという動きがでてきています。
ウェルビーイングが社会の中で注目されている理由は、こうした時代背景と大きく関係しているのでしょう。
ウェルビーイングとは?
そもそもWell-Beingとは何でしょう?直訳すれば、Well(良き)Being(在り方)。
まだ学術的な定義も決まっておらず、人によって解釈も様々でしょう。
よく取り挙げられる例では、世界保健機関(WHO)の健康の定義(1946)として
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的・精神的・社会的に全てが満たされた状態にあること
(physical, mental and social well-being)」と記述されています。
モノに不自由しない、モノに溢れた世の中になったからこそ、本当に大切なことは、
心の豊かさや身体の健康や人とのつながりであると気づいていく人が増えてきたことで、
それが共同体感覚としてもウェルビーイング(人としての良き在り方)を目指す方向に繋がっていったのかもしれません。
江戸時代の近江商人の商習慣「三方よし」は有名ですが、
三方とは、「売り手によし、買い手によし、世間によし」の意味です。
ウェルビーイング経営に当てはめると、従業員よし、お客様よし、社会よしと言ったところでしょうか。
日本にはもともと、自らの利益ばかりを追求するのではく、
社会の幸せを願う利他の精神が昔から根付いていたことも気づかされます。
また興味深いエピソードとして、初代アメリカ総領事のタウンゼント・ハリスが1856年に下田にやって来て、
当時の住民の様子をこのように記しています。
「この土地は貧困で、住民はいずれも豊かでなく、ただ生活するだけで精いっぱいで、装飾的なものに目をむける余裕がないからである。
それでも人々は楽しく暮らしており、食べたいだけ食べ、着物にも困ってはいない。
それに、家屋は清潔で、日当たりもよくて気持ちがよい。
世界の如何なる地方においても、労働者の社会で下田におけるよりも良い生活を送っているところはあるまい
-ハリス著、坂田精一訳『日本滞在記(中)』」
質素な生活の中にも精神的な豊かさは保たれており、
当時の日本のウェルビーイングな生活ぶりが垣間見られる表現だとも言えるでしょう。
明治維新以降の日本は、欧米列強諸国に対抗するための殖産興業・富国強兵・文明開化などの近代化を遂げ、
戦後も高度経済成長まで駆け抜けてきました。
そして30年間の景気低迷期を経て、いま起きている時代の大変革期の中で、もう一度、
ウェルビーイングな在り方へと回帰するプロセスを歩み始めたと言っても過言でもないかもしれません。
いま私たち一人一人が新しい生き方を模索していて、
その根幹にはウェルビーイング(良き在り方)という大きな柱があるのかもしれません。
ウェルビーイングの学術的定義は未だ定まっていないと述べましたが、
人生100年時代を生き抜く智慧として、自分に合ったウェルビーイングをクリエイティブに創発していっても良いはずです。
メタバース時代が到来しても、人は人らしく、より良い在り方を目指して、
つまりウェルビーイングに溢れた人生を歩んでいくことが何よりも大切なことではないでしょうか。