AI社会の担い手になろう – 野口竜司著『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)

 
 
 「AI人材」は「理系」じゃないの? 本書のタイトルを見て、疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれない。
そんな誤解を解くことこそが、本書の目的と言えるだろう。
 
 
確かに、少し前まで、AIの世界は、理数系や技術系の「理系AI人材」が引っ張ってきた。
しかし、AIの技術が一般化した今、「AIをどう作るか?」よりも「AIをどう使いこなすか?」の方が大きな課題になっている。
そこでカギになってくるのが「文系AI人材」なのだと、著者は指摘する。
 
 
 本書によると、日本の労働者は「AIが私の仕事にポジティブな影響をもたらす」と回答した割合が22%にとどまり、
世界平均の62%より40ポイントも低かったという(アクセンチュア調査)。
 
 
 「AIを知らなければ、恐怖が増幅する」「AIを知れば、怖さも消え使いこなせるようになる」。
筆者はそう強調し、まずはAIのことをよく知ることから始めようと呼びかける。
 
 
 大手プラットフォーマーなどのサービスにより、プログラミングコードを書けない文系であっても、
カジュアルにAIを作れる時代となった。
さらに、構築済みのAIサービスを利用することも可能になった。こうした時代の変化に伴い、
ビジネスや業務の知識に詳しく、かつAIにも精通した「文系AI人材」のニーズが高まっているという。
 
 
 著者が挙げる文系AIの仕事は、どのAIをどう活用するかのアイデアを出す「AI企画」、
AIを職場や店舗に実装する計画を立てる「AIの現場導入」、AIを活用する事業や投資額を決める「AI方針・投資判断」など。
 
 
(1)AIの基本を丸暗記し、(2)AIの作り方をざっくり理解し、(3)AI企画力を磨き、(4)AIの実装事例をとことん知る。
本書はこの4ステップで、読者を「文系AI人材」の入り口へと導いてくれる。
 
 
 著者の分類によれば、AIは、見て認識する「識別系」、考えて予測する「予測系」、
会話する「会話系」、ロボットの体や物体を動かす「実行系」の4タイプに分けられる。
活用法には、人間ができることをAIが代わりに行う「代行型」と、人間ができないことをAIによって可能にする「拡張型」がある。
これらを掛け合わせた8つのスタイルを、ビジネスにどう活かすか。ここから先が、文系AI人材の企画力が試される分野となる。
ポイントは、AIを過大評価も過小評価もしないこと。
 
 
AIの基本を知っていさえすれば、AIを作れずとも、実装後の変化が大きく、
実現性も兼ね備えたAI活用のアイデアを出せるようになる。
「現時点でのAI活用ではAIの実力の一部しか引き出していない。
感性によってアイデアの幅を広げ、またAI知識をインプットし論理的に判断できるようになりましょう」と著者は言う。
 
 
AIによって多くの仕事がなくなるると指摘されて久しい。
一方で、生産年齢人口の減少により、国内のIT人材は2030年時点で最大約79万人不足すると予測されている。
DX化が叫ばれ、政府も企業もこぞって、時代の変化に対応するための「リスキング」に取り組む。
だが、今の時代に求められる学び直しとは、決して理系の技術者のようになることではないのだ。
どんなに革新的な技術であっても、活用されなければ、ただの技術でしかない。
AIによって社会に大きな変化を起こせるかどうかは、文系AI人材のアイデアにかかっていると言っても過言ではない。
 
 
AIに振り回されるのではなく、AIを使いこなす側になる――。
シニア世代が豊富な経験を生かしてイノベーションを起こし、
ライフシフトを実現していくうえで、重要な視点になってくると言えるだろう。
 
 

仁瀬志太