2022.12.28

web3の世界にみる「働く意味」-【書評】伊藤穣一著『テクノロジーが予測する未来』(SB新書)

「web3」「メタバース」「NFT」という用語を聞く機会は増えたが、
具体的にイメージできるという人はまだ多くはないだろう。
本書はweb3の分野で第一人者である著者が、これらの基本的な概念と、
その可能性について、平易な言葉で綴った入門書である。
 
 
 web3は「分散型インターネット」とも呼ばれる。ブロックチェーンの技術を用いることで、
GAFAと呼ばれる巨大IT企業に依存することなく、
個人が主体となってデータやお金などをやり取りすることができる。
「web3が浸透することは、海外の巨大企業の手に握られていた所有物(少し強い言葉を使えば搾取されていたもの)を、
自分たちの手に取り戻すこと」。
著者はこうしたweb3の「分散的=非中央集権的」な側面に、社会変革の可能性があるとみる。
 
 
 web3の世界では、円やドルといった法定通貨ではない暗号資産(仮想通貨やトークン)が流通し、
新しい経済圏を形づくっている。
その中に、トークンのやり取りを介してプロジェクトやアプリケーションを走らせる「DAO(分散型自立組織)」がある。
 
 
 DAOにおいては、皆が「トークンホルダー」という対等な立場で、
会社組織のような「株主」「経営者」「従業員」という区別がない。
トークンを持っていれば誰でも、DAO内の議決に票を投じ、ガバナンスに参加することができる。
 
 
 著者はDAOを映画制作に喩える。作品ごとに制作チームが立ち上げられ、スタッフや俳優が集められて撮影が進む。
同じようにDAOもプロジェクトごとに立ち上げられ、それに興味を持った個人が思い思いの形で参加する。
著者によれば、DAOに参加しても雇用契約を結ばない場合が多いため、
同時に複数のプロジェクトに関わることが可能となる。
仕事が「組織型」から「プロジェクト型」へと変化する可能性を秘めているというわけだ。
 
 
「この魅力的なプロジェクトで、何か自分に手伝えることはないだろうか」と考え、自ら手を挙げて参加する。
仕事の内容も働く時間も場所も、誰かに指示されるのではなく、自分で決めることができる――。
著者は、こうした働き方が「働く主体としての自分を、
組織から自分の元へと取り戻すことを意味するといっていい」と指摘する。
 
 
「web3の世界など、自分には縁遠い」と思われたかもしれない。
しかし、あるプロジェクトを進めるには、エンジニアに限らず、様々な役割を果たす仲間が必要となる。
誰もがDAOに参加し、貢献できる「何か」を持っているはずだ。
最先端のデジタル世界を避けるのではなく、
まずは本書を読んで、メタバースやNFTの世界に触れてみることから始めてみてはどうだろうか。
 
 
今後、web3がどのような形で発展していくかは未知数だが、
DAOの試みは、働くことの本質的な意味を改めて教えてくれる。
本書によれば、主体的に働く世界でカギとなるのは、特別なスキルというよりも、
「パーパス(目的)」「パッション(情熱)」「クリエイティブ・コンフィデンス(自分の創造性に対する自信)」。
 
社会課題への貢献に意義を見出し、日本のイノベーションをシニアの観点から再構築する。
私たちがそんなライフシフトを実現していくうえでも、原点となるべき考え方だろう。

仁瀬志太

仁瀬志太