2023.06.06

セルフ・コンパッション Self-Compassion ~自分を受け入れ、しなやかに生きる力~

セルフ・コンパッション Self-Compassion ~自分を受け入れ、しなやかに生きる力~

 
 
 私たちは日常生活で無意識にも「自分はダメだなぁ」
「自分には才能がないなぁ」と自己批判をしていないでしょうか。
 
仕事や日常生活での悩みやストレスの良薬として、
マインドフルネスと同じ文脈の中で、セルフ・コンパッションへの関心が高まっています。
 
 
 セルフ・コンパッションを一言でいうと、
自分に優しくする力、自分を思いやることです。
不安や苦しい経験をした時も思いやりの気持ちや慈しみの心で自分自身に接します。
 
今ある感情を「あるがまま」に受け入れ、
どんな苦しみも人間なら共通して持っているという認識がある心の状態のことです。
マインドフルネスの研究が盛んになってきた今世紀以降、
研究の第一人者であるテキサス大学のクリスティン・ネフ博士が世界に広めてきました。
 
 
 コンパッションは、単に「思いやり」や「優しさ」とは異なり、
仏教の四無量心の教え、あらゆる人の幸せを願い【慈】、
あらゆる人の苦しみがなくなることを願い【悲】、
あらゆる人の幸せを喜び【喜】、
エゴを捨てとらわれない心【捨】というあり様のことを意味しています。
 
そしてコンパッションは他者だけでなく自分自身にも向けることが大切です。
先ずは自分自身が健全でなければ他者に思いを寄せることが出来ないという考えから
セルフ・コンパッションの研究が生まれてきました。
  
 
 ネフ博士は、他者と比較して自分が優位にあるという評価によって
自尊感情を高めることが幸福につながるというステレオタイプを打破することから研究を始め、
自尊感情が高くなくてもセルフ・コンパッションの高い人は
人生の満足度が高いことを明らかにしていきました。
 
加えて、不安や抑鬱が低く、
ストレスフルな出来事に立ち向かう回復力(レジリエンス)も高まることが分かりました。
ネフ博士によると、マインドフルネスとセルフ・コンパッションは補完的な関係にあり、
マインドフルな気づきには、自分の感情や思考を優しく受け入れるセルフ・コンパッションを高める必要があり、
両方を同時に扱うことは自然な流れであるということを述べています。
  
 
 ネフ博士によるセルフ・コンパッションの構成要素は、
「自分への優しさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」の
3つの核であるとしています。
  
 
 自分へ優しくするとは、自分に原因を求める自己批判ではなく、
自分の良い面や周囲の状況などにも気づき、感謝とともに経験を受け入れることで、
温かい気持ちを自分に向けるということです。
自分にうぬぼれる自己愛や、自分を憐れみ、甘やかすことではなく、
自分の良くない欠点も優しく受け入れることで、
それを改善して次のステップに進める動機付けが高まっていくということです。
  
 
 共通の人間性というのは、苦しく辛いのは自分だけではなく、
誰しも無数の人々が自分と同じ経験をしていることを知るということです。
自分だけが不幸で孤独で孤立しているという感覚から抜け、
他者とつながっている連帯感を認識できれば苦しさは和らいでいくということです。
  
 
 現実に対してマインドフルでいるということは、
今の感情を否定したり批判したりせず、
ありのままを客観視しながら受容することです。
憂鬱な気持ちや否定的感情に支配され、混乱した状況から逃れるには、
感情に自動操縦されることなく、マインドフルな状態でいることが大切です。

 

 

 

セルフ・コンパッション(3つの核となる構成要素)

 
 

 
 
 実際にセルフ・コンパッションを高めるための方法としては、
「慈悲の瞑想(Loving- Kindness Meditation)」の実践が挙げられます。
前述の四無量心の考え「慈悲喜捨」を願う瞑想になります。

 
 
最初は自分自身の幸せを願うフレーズを繰り返し、
徐々に対象を好きな人から嫌いな人と広げていき、
 
最後はすべての生きとし生けるものにしていきます。
自分自身の祈りから始まるスタイルは、
自分をないがしろにしては、本当の意味で人を救うことが出来ないということです。

 
 
慈悲は自己中心でもなく、自己犠牲的なものでもなく、
慈しみの心を育んでいくと、自分にも他者にも関心が向くようになってきます。
自利利他のバランスが良くなっていくと、
ストレス耐性がつき、穏やかでいられることが出来るようになってきます。

 
 
実際にこの慈悲の瞑想を7週間実践した研究では、
ポジティブ感情が上昇し、
自己受容や他者とのつながり感が増し、
人生満足度が高まったとの報告があります。

 

 

 

■慈悲の瞑想(Loving- Kindness Meditation)

 
 

 

 

 依存ではなく、自立しながら共存する「慈悲喜捨」の考えは、
お互いを大切に想い、共感し、共に喜び、
しかし執着はしないということです。

 

 
 日常のどんな場面でも、上手くいかない出来事が起これば、
批判的な思考は生まれるものですが、
私たちは主観的な判断で世の中を見ているだけで、
勝手に自己嫌悪に陥っていることの方がむしろ多いのかもしれません。
 
自分への愛に満ちた好奇心を持って、
マインドフルにその思考に優しく気づいて、
慈しみの言葉を自分自身や他者にかけていくことを習慣化することで、
VUCAという混沌とした時代も健やか穏やかに過ごしていきたいものです。

 

大西 聖子 

大西 聖子 

ライフシフトコンサルタント

大手食品会社の業務用営業企画部門にて、商品プロモーションや会員制コミュニティの運営企画全般に携わる一方で、顧客向け・販売代理店向けのセミナー・研修企画、マーケティング講師を務めた。国家資格キャリアコンサルタント、ウェルビーイング心理教育ナビゲーター、一般社団法人マインドフルネス瞑想協会認定講師、全米ヨガアライアンスRYT200。