【連載シリーズ】たかがスピード、されどスピード~即断即決能力の背景にあるもの~
連日体感温度が40度を超える猛暑。
山火事、豪雨、干ばつ・・・世界中で荒れ狂う異常気象。
もしかしたら我々は地球上に存在した人類の最後のジェネレーションから数えて何番目という位置に立っているのかもしれません。
若い衆が口をそろえて「社会のために」「地球環境のために」と語るのももしかしたら、
本能的に終末を感じとっているからなのかもしれない、そんなふうにさえ感じてしまいます
さて、今回はリスキリングの4つのSのうちのSPEEDであります。
小さな体験談から出発しますことお許しください。
わたくしたまたま潜水艦に乗せていただいたことがあります。
どこの国の潜水艦隊も同盟国の潜水艦隊と共同訓練を定期的に実施します。
もちろん、これは潜水艦隊に限らずすべて軍種に共通いたします。
さて、「共同訓練」というとなんか年中行事化した社内「避難訓練」みたいな、
なんとなーくまったりした予定調和的なものかなと思われるかもしれません。
しかーし。実態はさにあらず!
壮絶極まりない模擬戦闘を海中で繰り広げるのです。
映画「レッドオクトーバーを追え」さながら。
模擬戦闘のパフォーマンスで艦長の能力が評価されるわけですから双方とも負けられません。
あるベテラン指揮官OBからこんなお話を伺いました。
極度の緊張が支配する艦内でどっしり構えている艦長がいたとしましょう。
その場合、その艦長自身の内面は二つに分かれる。
ひとつは状況を完全に把握し常に対応方法のリストが頭にあり、
秒単位で仮想敵である同盟国潜水艦の動きに応じ、
優位に立てるよう即座に適切な指示をだしていける、
だから浮き足立つことなくどっしり構えている。
しかし、まったく反対のケースもある。
どうしてよいかわからず混乱のあまり判断不能に陥っている。
そのような茫然自失状態の艦長が一見落ち着いているように見えてしまうということも少なからずあるそうです。
さて、同様の状況はビジネスでも起こりえます。
ライバル企業の思わぬ動きへの対処、即断即決をもとめられる顧客からの要求への対応、
想定外の事故の発生などなど。
そのような場合、部署には緊張の空気が張り詰め、部下は上司の判断を固唾をのんで待っている。
ここで茫然自失してしまうのか、自信をもって部下に迅速に指示をだせるか。
上司の器がとわれる瞬間です。
さて、スピードとは単に速い判断をすればよいということではありません。
その後ろにあるのは想定されえるあらゆる事態を予め想定し、それぞれの事態への対応を予め頭にいれてあるかどうか。
もちろん、そこで大きな武器になるのは経験です。
ベテランの艦長は様々な経験から確信をもった判断を繰り出していきます。
これはLSが研修で重視している自分の固有の「知」としての「ベテラン資産化」がなせる技に他なりません。
経験はスピードの大きな源泉です。
ただし、その経験を自分の資産としてあることが条件です。
同時に、技術や社会状況の不断の変化は過去の自分の経験の有効性を制限している可能性があることも
意識しておかなければならなりません。
これは不断の勉強、
若い人たちとの会話といったもので経験を補完し更新していくことを厭ってはならないことを意味します。
LSが研修を受ける方に「経験や暗黙知のアップデート」の重要性に目を向けてもらっていただいている理由の一端です。
「ベテラン資産化」×「経験、暗黙知のアップデート」が真の意味でのスピードにつながります。
スピードと一言でいってもそこには奥深いものがあります。
さらに、新しい事態に自分資産化した過去の経験と獲得済みの暗黙知とそのアップデートで対処する。
このことをより広い文脈においてみれば、
4つのSのもう一つのSの「シナリオ」は「スピード」はある意味裏表の関係にあると言ってよいかもしれません。
未来のシナリオとベテラン資産化と経験・暗黙知のアップデートを連接させることが
スピーディーでかつ的確な判断を可能にすると言ってもよいかもしれません。
さて、今回はスピードを巡る奥深さのごく一端をご紹介いたしました。
この続きは弊社会長徳岡著の「リスキリング超入門」で「スピード」の更なる深淵に是非ふれていただければと思います。
きっと収穫の多い夏休みになるかと思う次第であります。
それではまた来月。
みなさまくれぐれもご自愛ください。溶けたりなさいませんよう。
藤井敏彦
株式会社ライフシフト ストラテジック・アドバイザー
1964年生まれ。87年、東京大学経済学部卒業。同年、通商産業省(現・経済産業省)入省。94年、ワシントン大学でMBA取得。通商、安全保障、エネルギーなど国際分野を中心に歩き、通商政策課長、資源エネルギー庁資源・燃料部長、関東経済産業局長、防衛省防衛装備庁審議官、国家安全保障局(NSS)内閣審議官などを歴任した。2000~04年には在欧日系ビジネス協議会の事務局長を務め、日本人初の対EUロビイストとして活動するなど、豊富な国際交渉経験を有する。NSSでは経済班の初代トップとして、経済安全保障推進法の策定などに携わった。主な著書に『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)など。