マインドフルネスは脳や心の筋トレ
最近はビジネス書でもマインドフルネスという言葉をよく見かけるようになってきました。
2007年にグーグル社が「サーチ・インサイド・ユアセルフ」という
マインドフルネス実践プログラムを研修で取り入れたことで話題となりました。
著名な経営者やスポーツ選手がマインドフルネスを実践しているということで気になっている方も多いことでしょう。
日本人であれば、概ね座禅みたいなものかな?というイメージかもしれません。
日本マインドフルネス学会によると
「今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義されています。
ここでの「観る」とは、見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる、そしてそれらによって生じる心の働きも観るということです。
五感+心ということで、仏教用語では六識と言われています。マインドフルネスは、仏教の八正道の中の「正念」に由来しており、
パーリ語(古代インド言語)のsati(気づき・自覚)を英語で表現したのもがMindfulnessになります。
マインドフルネスは、1979年にマサチューセッツ大学医学部のジョン・カバット・ジン博士が宗教的な要素を排除し、
瞑想と西洋科学を統合したことにより臨床現場で用いられようなりました。
当初は、慢性疼痛などの代替治療として開発されましたが、その後、不眠や心疾患など様々な疾患に応用されるようになり、
マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)や反復性うつ病の再発防止のためのマインドフルネス認知療法(MBCT)など
様々なアプローチが開発されています。
ここ10年間で、マインドフルネス関連の研究が急増し、
今では世界中の大学が競ってマインドフルネスセンターを設立しています。
「瞑想したら頭の中がスッキリした」「瞑想したらイライラがおさまった」という主観的な感覚も
fMRI(機能的磁気共鳴画像法)による技術の進化により、脳科学的にも解明されてきています。
ハーバード大学などの研究では、
瞑想による学習プロセスの強化やストレスと関係する脳の扁桃体の不活性化などが分かってきています。
マインドフルネスは、「気づきのトレーニング」と考えるのが一番シンプルで分かりやすいでしょう。
瞑想=無心になる、ということではなく、私たちは常に雑念が湧いていて、注意散漫になりやすく、
そういう状態に気づいているということがマインドフルネスということになります。
マインドフルネスの反対は、マインドレスネスまたはマインドワンダリングです。
我ここにあらずの状態で、ぼんやり思考が彷徨っていることです。
マインドワンダリング状態の時は、
脳がアイドリング状態にあるときに働いている脳の回路:デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)が過剰に働いているといわれています。
頭の中でネガティブなおしゃべりに没頭する時間が増え、
将来に対する不安や恐れ、過去への後悔を感じやすくなります。
うつ病の症状に見られる反芻思考は、DMNの使い過ぎと指摘されています。
マインドフルネス瞑想を習慣化すると、DMNが不活発になることが、イエール大学の研究などでも明らかになっています。
マインドフルネスの効果は、筋トレやジョギングと同じで、
習慣化・継続することで脳の総合的な機能の向上に寄与することが脳科学研究でも解明が進んでいます。
基本のマインドフルネス瞑想は、自分の呼吸に意識を向けることによって注意力を高めていきます。
注意が逸れたことに気づいたら、また注意を呼吸に戻していく…これを繰り返すことで注意力が鍛えられていくのです。
集中力が高まると、仕事のパフォーマンスなども向上するということです。
また、「今、この瞬間」の自分の感情や思考に客観的に気づくことで、
衝動的な反応やストレスを抑制することができるようになります。
不安やネガティブな思考や感情が認識できると、その原因を取り除く対処をするので、
ストレスが軽減し、レジリエンスが高まると言われています。
自己認識力が身につくと、EQ(感情知性)や共感力の向上も期待できます。
自分自身と他人の感情を観察して見分け、その気づきを使って、
自分の行動や人間関係を上手にコントロールできるようになり、
周囲との関係性が向上するということです。
マインドフルネスの実践は、座って瞑想するだけでなく、
1日のあらゆる場面でも行うことが可能です。
歩く瞑想、食べる瞑想、相手の話をあるがままに聴くマインドフル・リスニングという実践法もあります。
料理や掃除などの日常的な家事も丁寧にこなすことでマインドフルネスを日常生活に取り入れることも出来ます。
マインドフルに「今ここ」に意識を向け、自分のメンタルを整えながら、
人間関係、仕事のパフォーマンスのレベルも上げていく。
科学的知見に基づいた瞑想のメカニズムの解明が進んでいくにつれ、人生100年時代には、
より多くの人がマインドフルネスをウェルビーイングの手法として取り入れていくのかもしれません。