2023.04.03

心理的安全性とLQ(Love Quotient) リーダー PARTⅠ

  
 
 ライフシフト社のイノベーターシップ教育にかかわるようになり、
イノベーションを起こすためには、
優れたフレームワークや共通言語でイノベーションリーダーを育成することの大切さはもちろんのこと、
イノベーションを生む組織や文化構築の大切さも同時に感じています。
  
 
以前にイノベーターシップ教育を企業内に導入したある企業でのこと。
その企業では各部署選抜者が受講、受講者メンバーはフレームワークを熱心に学び、
その研修で現場を変えていく熱い思いを持ち具体的な新規事業案を提案しましたが、
組織内の展開で頓挫したケースがありました。
  
 
その際、その新規事業案は実現において、
期間の制約から検証の不足感は否めなかった点はあるものの、
優れたメンバーの新しい発想提案に対しては、その提案内容の本質の議論よりも、
これは「研修の中の演習」ではないのか、
真剣な「新規事業検討の場」なのかといった議論に陥ってしまった残念な経験をしました。
  
 
  
 「イノベーションのジレンマ」等のイノベーションに関する優れた研究家である、
クレイトン・クリステンセン氏はその著書の中で
「『イノベーションは全員の仕事』の理念を定着させるには、
社員が安心して現状に挑戦できる場を設ける必要がある」
※1と言います。
  
 

組織行動学の研究者はこれを「心理的安全性(psychological safety)」と呼んでいます。
組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語で、
「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。
 
Googleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」
との研究結果を発表したことから注目されており、
心理的安全性を高めることで個人や組織の効果的な学習や革新につながると期待されています。
  
 
  
 
 それでは、企業や組織においてイノベーションを生みやすい「心理的な安全性」
どのように構築されるのでしょうか。
  
 
最新のティモシー・クラーク氏の研究※2では「心理的安全性」の構築には4つの段階があると言います。
心理的安全性は人間の欲求の自然な流れに沿って発展し、
まず、人間は「仲間に入りたい」、
次に「学びたい」、三つ目に「貢献したい」、
そして最後に、現状に変化が必要だと思える時には「挑戦したい」と願う。
  
 
また、この順序はすべての組織や社会単位において共通しているとも述べています。
つまり、心理的な安全性とは、
何らかの恥ずかしい思い、疎外感、罰などを恐れることなく、
 
(1) 仲間として認められ(インクルージョン安全性)
(2) 安全に学べ(学習者安全性)
(3) 安全に貢献し(貢献者安全性)
(4) 現状打破に安全に挑戦できる(挑戦者安全性)
 
と感じられる状態を指す、という段階を進んで構築されるとの見解です。
  
 
 さらに、それぞれの構築段階においては、やはりリーダーの役割が大きく
例えば、前述のクラーク氏の研究では、
特に最終段階の「挑戦者安全性」はイノベーションを起こすためのライセンスであり、
緊張を解き、人々の才能を引き出すこと、
そしてこのプロセスを試行錯誤しながらずっと繰り返すことが必要で、これこそリーダーの仕事と言います。
  
 

失敗することは人間の常です。
その際、周りを見回し、
「この質問をしたら、わからないと認めたら、ミスをしたら、どんな代償を払うのか? 
頭が悪いと思われないだろうか? 笑われないだろうか? 評判を落とさないだろうか?」と、
私たちは意識的に、あるいは無意識的に自分を取り巻く人間関係にリスクが生じないかを見極める行動をします。
  
 

「挑戦者安全性」を奪うと、チームは集団思考を減らすどころか一層助長してしまいます。
それは、メンバーに対して、考えないように、
挑戦しないように条件づけしていることになり、
メンバーはそれを学んでしまい、瞬く間に心を閉じる事態を招いてしまいます。
  
 
ここでは、むしろリーダーが、
失敗はあってはならないことではなく、あって当然のことであり、
前進するために通る道であり、新しい発見の前には落胆することもある、
といった気構えでリーダーが積極的かつ自律的に学ぶ姿勢を見せることが大切なようです。
  
 
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中島隆治 

中島隆治 

ライフシフトSVP

NEC/NECエレクトロニクスにて半導体製品の海外営業に従事。欧州販売会社に駐在後、グローバル人事にキャリアシフト。ルネサスエレクトロニクスにて海外幹部人事・研修、構造改革を担当。英国大手広告会社WPP/カンタージャパンにて日本・韓国拠点のHRディレクター、大手医療機器・サービス会社PHCホールディングス株式会社にて人事部長、CHRO/CAOを歴任。イノベーション・リーダー育成プログラムの導入、数々のグローバルM&A、東証プライム市場上場を人事の立場でリード。