2023.11.24

【連載シリーズ】リスキラーのためのセキュリティ教養講座 その壱―日本社会の「ナショナルセキュリティ」ターン―

 
ほんの少し前までセキュリティ関連のビジネスといえば
いわゆる「ホーム」セキュリティ(家庭用防犯装置)が最先端でした。
 
いつ頃からでしょうね。多くの家庭が防犯装置を付けだしたのは。
犯罪率があがったわけでは必ずしもなさそうなのですが。
もちろん用心に越したことはありません。
あと、もちろん「ジョブ」セキュリティは誰もの関心事項でしたし今も当然そうだと思います。

 
 
一方、セキュリティには「ナショナル」セキュリティ(国家安全保障)というものものあります。
いわば国家版「防犯」ですが、
こちらは「センサー・アラーム・駆け付け」でワンセットというわけにはいきません。
 
レーダーから戦闘機、潜水艦から弾道ミサイル迎撃ミサイルシステムとハイテクてんこ盛りで
年間5兆円(GDPの約1%)の予算が割り当てられています
しかもさらに予算は今後倍増するということになっています
となれば10兆円!防衛予算倍増はまわりまわって我々が納付する税金によってまかなわれるわけですが、
一般に必要性は理解されているようです。

 
 
世は身替りが早いというかなんというか。
従来、企業は防衛部門を「特機部門」と呼び、
できるだけ防衛装備品に関与していることを表に出さないようにしていたのですが、
国家の「防犯装置」マーケットは今や数少ない成長市場という認識が広がっています。
 
防衛関連企業の株価が上がり、
名だたる世界の防衛産業がアジア本社をシンガポールから東京に移すという
ちょっとした「ナショナル」セキュリティブーム
です。
ちなみに数年前まで防衛事業を抱えていることは
当該企業の株価押し下げ要因とされていたのですから180度のターンです。

 
 
また、先日、防衛技術を民生製品(水中ドローン)に活用すると発表した
NECの記事が日経新聞の一面を大々的に飾っていました。
お目にとめられた方もいらっしゃるかもしれません。隔世の感がございます。
 
従来日陰者的があった国家のセキュリティと企業の国家のセキュリティへの貢献というものが
ごく普通にかつ有意義なものとして、
社会のためにもビジネスの上でも有意義なものとして語られる時代
になってきたのです。

 
 
さらに、日本の防衛産業の国際展開も今後大きく進む可能性があります
三菱重工を中心とする日本のメーカーは現在、
イギリス、イタリアと共同で次世代戦闘機の開発に取り組んでいます。
この共同開発機の輸出が可能になれば
従来自衛隊だけを市場としていた日本の防衛産業の可能性は格段に大きなものとなるでしょう。
 
また、三菱電機はオーストラリア国防省と防衛装備品の共同開発事業の契約を結んだと発表しました。
防衛省を経由しない海外政府との共同開発もまた日本の防衛産業の国際進出を大きく後押しするものだと思います。

 
 
しかもこれの企業の海外展開の動きポジティブに報道されています。
この社会の人々の世界認識が大きく動いたことを意味します。
決して日本の平和主義的空気が薄れたわけではないでしょう。
ただ、現実を直視せざるをえなくなったということかもしれません。

世界を見渡せば、みなさまご存知のとおりの「想定外」の状況ばかり。
 
かくしてビジネスパーソンにとって「ナショナル」セキュリティは必須の知識なのです。
直接間接にビジネスにつながりえるという意味においても
リアリティのあるものとしてとらえておかなければならないのではないかと存じます。

 
 
だってですよ・・
 
米中の覇権争い

尖閣諸島をめぐる日中のせめぎ合い

台湾有事の可能性

北朝鮮の弾道ミサイルによる挑発

本格的陸戦の勃発(ロシア・ウクライナ戦争)

ハマスによるイスラエルへの奇襲ロケット攻撃に端を発するイスラエルのガザ地区侵攻
(中東全体を巻き込んだ紛争へ拡がる可能性も否定できない)

ウクライナと中東の双方「二正面」への対応を迫られる米国

 
 
これらが同時に並行的に発生している今日の世界情勢は10年前のそれとは様相を異にしています。
太平の眠りは覚まされてしまいました。
喫緊の問題として、中国が台湾との関係でなにがしかの動き(全面侵攻は考えにくいですが)をするには
今が絶好のタイミングと分析されています。
なぜならアメリカにウクライナ、中東に加えて「三正面」作戦を強いることができるからです。

 
 

では、このような世界の「新常態」に身を置く日本国はどうしようとしているのか、
日本のビジネスはどう対応しようとしているのか?
弊社会長徳岡が語る新時代の「S」のひとつSecurityのなかでも
この地政学的「S」について来月以降引き続きわかりやすく解説させていただこうと思います。

 
 
日本はほんとご近所さんにめぐまれていません。
ロシア、中国、北朝鮮とお付き合いの難しい方々ばかり。
最善の策は豪州とNZの間くらいの空いている海域へのお引越しですね。
のんびりできますよよー。きっと。
 
十億年くらいかな・・・。

では。

藤井敏彦

藤井敏彦

株式会社ライフシフト ストラテジック・アドバイザー

1964年生まれ。87年、東京大学経済学部卒業。同年、通商産業省(現・経済産業省)入省。94年、ワシントン大学でMBA取得。通商、安全保障、エネルギーなど国際分野を中心に歩き、通商政策課長、資源エネルギー庁資源・燃料部長、関東経済産業局長、防衛省防衛装備庁審議官、国家安全保障局(NSS)内閣審議官などを歴任した。2000~04年には在欧日系ビジネス協議会の事務局長を務め、日本人初の対EUロビイストとして活動するなど、豊富な国際交渉経験を有する。NSSでは経済班の初代トップとして、経済安全保障推進法の策定などに携わった。主な著書に『競争戦略としてのグローバルルール』(東洋経済新報社)など。