ミドルシニアのキャリア不安とセルフ・コンパッション
前回のセルフ・コンパッションの続きで、
セルフ・コンパッションとキャリア不安の関係について今回はお話したいと思います。
セルフ・コンパッション Self-Compassion ~自分を受け入れ、しなやかに生きる力~
VUCA時代、目まぐるしい外部環境に適応しながら、
自己実現へ向けてのキャリア探索に試行錯誤されている方も多いのではないでしょうか。
また一方で、将来に漠然とした不安を抱えている方も少なくないでしょう。
特にミドルシニア世代は、人生後半へ向けての自己内省、
アイデンティティの再体制化という課題と同時に、
子供・親の世代の心理社会的危機が重なって現れやすい時期でもあります。
青年期に達した子供は、自立の試み、アイデンティティ形成という課題、老年期を迎えた親の世代は、
人生の締めくくり、アイデンティティの最終的な納得という課題を抱えています。
そんな狭間でミドルシニアは、自己批判に陥ることなく、
自己受容的な癒しこそ不可欠なのではないかと考えるに至り、
ミドルシニアのセルフ・コンパッションの有用性について注目してみました。
先行研究ではセルフ・コンパッションが高い人は、
肯定的な心理資源を有しているとされています。
例えば、セルフ・コンパッションは、自己との肯定的な関わり方であるため、
自尊感情と強い正の相関関係にあり、自己像の不安定性と負の相関にあります。
また、困難な出来事や自己の感情をバランスよく、客観的に捉えることを促すため、
ネガティブな反芻とも負の相関があります(Neff&Vonk,2009)。
そこで、セルフ・コンパッション尺度*と将来のキャリア不安との間には、
セルフ・コンパッションが高いほど、
キャリア不安は低くなるという負の相関があるのではないかと仮説を立ててみました。
*日本語短縮版(有光、2016)6因子12項目を用いた。
ミドルシニアを中心に知人、所属コミュニティの方々のご協力を得て、アンケート調査を実施(2023.7)したところ、以下のような結果となりました。
-.544( r(69)= -.544, p<.001 )
図1:セルフ・コンパッション尺度と将来のキャリア不安の散布図(N=71)
「セルフ・コンパッション尺度」と評定尺度(5段階)「将来のキャリア不安」との間には、
相関係数が-.544と比較的強い負の相関が見られました(図1)。
セルフ・コンパッションが高いほど、将来のキャリア不安が低い傾向がでました。
セルフ・コンパッションが高い人ほど、前述の通り、肯定的で安定した自己像を有し、
困難な出来事や自己の感情をバランス良く、客観的に捉えることを促すため、将来のキャリア不安が少ないのではないかと推察されます。
併せて、セルフ・コンパッション高群と低群では、
「将来のキャリア不安」の平均値に有意な差が見られるかどうかを検証しました。
先行研究では、セルフ・コンパッションが高い群は、自己効力感、不適切な接近行動を制御できる能力、
回避したい行動でも遂行する能力、必要に応じて集中したり、注意を切り替えたりする能力が高く、
抑うつ症状の重症度が低いことが分かっています(大宮ら,2018)。
セルフ・コンパッション尺度の平均値(M=3.589)より高い群を高群、低い群を低群とし、
2群のキャリア不安の平均値に有意差があるかどうか検定を行ったところ、
条件間で有意な差が見られました(図2)。
t(64.594)=3.255, p =.002)
図2:セルフ・コンパッション高群・低群とキャリア不安の平均値
また、本アンケート調査の自由回答では、
ミドルシニアの抱えるキャリア不安の中でも特に
「定年後の働き方」や「仕事におけるスキルや自らの市場価値」などが顕著でした。
定年後のセカンドステージに繋がるキャリア探索に不安を抱えており、
次いで「独立起業」「収入面」「生活全般」に関する不安が多く見受けられました。
起業のように果敢にチャレンジすることで生じる不安と、
会社員の定年後の漠然とした将来不安が混在し、一言で不安と言っても様々です。
セルフ・コンパッションが高い人は、否定的な出来事に対して自分に優しく接し、
否定的感情も肯定的感情もバランス良く受け入れることができるため、
精神的健康を維持しやすく、ウェルビーイングが高くなることが多くの研究でも示されています。
先ずは、クリスティン・ネフ博士のサイトで
ご自身のセルフ・コンパッション度合をアセスメントしてみることをお勧めします。
Google翻訳で日本語にできます。
セルフ・コンパッションがキャリア不安を和らげ、
自律的なキャリア探索にプラスに働くのであれば、
セルフ・コンパッションを日常に取り入れることに意識を向けていくのも一理あります。