三菱ケミカル株式会社 和田久美子 様
【 化学・メーカー 】
人事部 人材・組織開発グループ グループマネージャー 和田久美子 様
<略歴>
1989年 筑波大学大学院医科学研究科修了。三菱化成(株)入社。総合研究所にて化合物の安全性病理評価を担当。
1990年 医薬事業部に異動。営業企画、プロダクト担当、支店学術等を担当。販売提携会社への出向。
1999年 東日本支社、東日本学術センター 学術統括マネージャー、ライフサイクルマネージメントGグループマネージャー
2004年 製品戦略部
2007年 事業開発部、グループマネージャー
2017年 営業本部営業研修部長
2019年 三菱ケミカル(株)出向、人事部人材・組織開発Gグループマネージャー
(合併による社名変更)1999年に三菱東京製薬(株)、2001年 三菱ウエルファーマ(株)、2007年田辺三菱製薬(株)
新しい仕事や職場は自分の幅を広げる好機
迷わずにチャレンジしてほしい
医薬事業の最前線から人材育成の世界へ
異動はチャレンジの機会としてポジティブに受け止める
【徳岡】 和田さんは2年間、田辺三菱製薬の営業本部で営業研修部長を務められて、今年(2019年)4月に三菱ケミカルの人事部に異動されました。最初に、和田さんのこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。
【和田】 私は旧・三菱化成に入社し、総合研究所に配属され研究職としてキャリアをスタートしました。ただ、薬の種の探索研究を行う仕事よりも、できれば自社の製品が患者様の治療に役立っていることを実感できる仕事がしたいという希望を先輩や上司に何度か伝えました。ちょうど営業本部医薬事業部が事業拡大に向け人員を拡充する時期と重なり、念願の製品を扱っている部署への異動が叶ったのは運がよかったのかもしれません。そこで、販売提携会社への出向、学術職として支店でのMR支援、新製品のプロダクトマネージャー、ライフサイクルマネジメントといった業務に携わり、いつも全力投球で身体的にはきつかったですが、本当に楽しかったと今でも言えます。35歳で、20人の部下を持つ学術のマネージャーになり、女性でしかも最年少でしたので、周りからの風当たりも想像以上にありました。その後いくつかのグループでマネージャー職を担い、外からは順風のように見えたかもしれませんが、この間に、会社が2度他社と合併するということがあり、これは私個人の会社人生についての価値観を大きく揺るがすものでした。このまま営業の中だけでキャリアを重ねていっていいのだろうか。そこで上司に、自分はこれからのキャリアに不安をもっていること、経営トップに近いところで、組織運営や経営についてもっと勉強したいと正直に伝えました。少し時間はかかりましたが、製品開発の方向性やポートフォーリオを決める製品戦略部で仕事をする機会を与えていただきました。
私にとって3度目の合併により、田辺三菱製薬が発足してからは、10年間、事業開発部でライセンス業務に携わりました。多分、この仕事をそのまま続けるのだろうと思っていたのですが、ある日突然、営業本部の営業研修部長という、次のチャレンジする場を与えていただきました。
【徳岡】 結果的に、もっと勉強したいという希望が叶ったということですね。
【和田】 はい。
【徳岡】 営業研修部長は想定外だったようですが、ポジティブに受け止められたのですか。
【和田】 はい。今回の三菱ケミカルへの人事異動もそうでしたが、やはり同じところでずっと同じことをしていても、私としては進歩がないと思っています。かといって、新しいチャレンジというのは、やろうと思っても自分ではなかなかできない時もあります。ですから1つの形として異動という機会を与えてもらうのはありがたいことだと思っているので、ポジティブに捉えています。
【徳岡】 新たな職場でやっていけるだろうか、という不安はありませんか。
【和田】 あります。管理職として異動しますので、出向であろうが、未知の領域であろうが、経営が期待するような実績を残していかなければいけない。しかし、全く経験のない職域ですし、その部署特有の言語や価値観がわからなかったりするので、なかなか思う通りにならないという焦りはありますね。
【徳岡】 新たな職場でキャッチアップする和田さん流のコツは何でしょうか。
【和田】 長い間、営業やライセンスなどの業務を通じて、投資に対するリターンは何か、その時期は、を考える習慣がつきました。どの業務であっても、四半期、せめて半年ごとには成果を出すためには、どんなアクションが必要かを考えるようにしています。それから、コミュニケーションをきちんと取るように心がけます。以前は、自分が知らないことを「知らない」と言えませんでした。ライセンスという仕事は、さまざまな部署からプロフェッショナルを集め、製品評価、事業評価、契約交渉等の役割分担をしてもらうことでプロジェクトを進め、可及的速やかに経営陣の判断を仰ぐ事ができないと成功しません。プロジェクトを進めていく際に、私は競合製品や市場性、自社製品とのシナジー等の営業にかかわることは責任をもって判断しますが、科学的データの評価、開発確度や許認可にかかわる法律、プロセス等は開発や薬事のそれぞれの専門家が判断します。この経験を通して、互いに自分の強みを活かし合って仕事をすることが当たり前になり、それからは、知らないことがあれば「わからないです」とか「教えてください」と聞けるようになりました。
【徳岡】 確かに、新しい職場で何も人に聞くことができないと、結構辛いですね。経験を重ねるにつれどうしても、プライドが邪魔をしてしまいます。
【和田】 はい。それまでは、営業のことは大抵わかりましたし、学術面に関しては自信がありましたから、知っているのが当たり前でした。ライセンスを担当するようになって、知っていることが当たり前ではないということがわかったのは、自分にとって大きな成果でした。
【徳岡】 そういう意味では、異動というのは最初は大変ですが、結果として自分の幅を広げてくれるわけですね。
【和田】 はい。自分の中では、異動したことは決してマイナスになっていないという自信があります。営業研修部長だった2年間、メンバーには「1つのことを長くやって、その道のプロでもいいけれど、できれば、もう1つあるいは2つはできることを増やし、業務の幅を広げてほしい。自分ができることの幅を広げられるように、異動も含めて、仕事への取り組み方をしっかり考えてほしい」と言い続けました。実際に、なるべくチャレンジできるような環境を整えてきたつもりです。
中途退職後も社外で評価されるような育成が必要
【徳岡】 キャリア形成のプロセスとして、計画的に築いていくやり方と、その都度チャンスに応じて変わっていくやり方があると思いますが、和田さんはどちらを支持しますか。
【和田】 会社員をやっていると、キャリアは自分の思う通りにはならないですね。ですから、会社は何か意図があって異動させてくれているのだと思うようにしています。
【徳岡】 そうですね。長期的なビジョンというか、キャリアへの思いを持ちつつも、すべてはコントロールできないので、樹木希林さんの「一切なりゆき」ではないですが、各局面で精いっぱいやることで道が開けるという信念が大事だと思います。でも、若い世代では、思い通りにいかないとすぐ辞めてしまう人も多いようです。
【和田】 今の新人はi-Phoneを持って生まれてきたような人たちですから、価値判断のスピードやプロセスが我々とは違うのだろうと思います。我々は長い時間をかけて、成功体験を積み重ねながらきていますが、今はネットで何でもすぐに調べることができますよね。効率的に回答を得ることを最優先するというか、それ自体悪いことではありませんが、成果を得るまでに紆余曲折したプロセスに対する見方が少し違うのかもしれません。そういう価値観に合った育て方や、人事制度も必要だろうと思います。
【徳岡】 そうですね。いろいろなニーズに応えてあげないと、柔軟な働き方には対応できないのかもしれません。
【和田】 難しいですね。右肩上がりの時代だったら、頑張って努力を積み重ねていけば、それなりのキャリアを経験することができたわけですが、今のように市場全体が拡大せず、労働人口も減っているような環境では、横並びで成功体験を積ませてあげることは難しくなっていますね。
【徳岡】 どのような人材育成をしていきたいですか。
【和田】 会社に入っていただいた人たちが、活き活きと働けることも大事ですし、中には転職する人たちもいるでしょう。ですから、10年20年かけてコツコツ育てていくやり方も大事ですが、いつどこの会社に移ったとしても、「ああ、あの会社で経験を積んできたから、しっかりしているよね」と評価されるような育て方をしていかなければいけないと思っています。
一人ひとりが社業を通じた社会貢献を考えられる組織風土を醸成したい
【徳岡】 女性には、これからもっと活躍してほしいと思うのですが、和田さんから若い世代に向けて何かアドバイスはありますか。
【和田】 女性が働き続けるための制度は、今や大手企業ではパーフェクトに近いくらい整っているのではないかと思います。これからの世代の女性には、ぜひその制度を活かしていただいて、ずっと働き続けてほしいです。マネージメントやリーダーといった役職にチャレンジするのも1つですが、どんな仕事でもいい、一人ひとりがプロフェッショナルであればよいと思います。仕事を通して社会に貢献できているということを、自覚しながら働き続けてほしいですね。
【德岡】 せっかく働き続けやすい環境があるのだから、もっと仕事にコミットしてほしいと。
【和田】 そうですね。でも、そのためには、会社がどれだけ魅力的かということも大事だと思います。会社が社業を通して社会にどのように貢献しているのか。そしてその中で、自分はどうやって社会に貢献できるのかを考えていけるような組織風土、広い視野を持てるような風土を醸成していかなければいけないと思っています。
【徳岡】 会社の存在意義をもっと明確にして、社員の皆さんに「自分もそこにコミットしたい」と思わせるような刺激を与えていかないといけないと。目の前の仕事に一所懸命になってはほしいものの、そこに釘付けにしては成長ポテンシャルも動機も失わせてしまいます。社会課題が満載の時代なので、そこに女性の目線から自分の将来の価値をつなげていく視界の大きさを育てたいですね。
【和田】 そうですね。ダイバーシティは多様な人材の活躍が趣旨なのですが、そうはいっても、女性という切り口にしたとき、現実問題として、現時点では社内に女性管理職は少ない訳です。もっとチャレンジしてほしいし、会社もそのための施策を充実させています。当社の場合、製造現場はやはり男性社員が中心ということもあって、まだまだ女性社員自体の割合が少ないのが現状です。しかし、今後ロボティクスの導入やAIにより体力を必要とする仕事や危険にさらされる業務は軽減されるでしょう。また、個人の事情に応じた柔軟な働き方を認める働き方改革も、女性が働くためにはすごくいいことだと思っています。働く時間を短くするには、今まで飲みニケーションや長時間労働の中で上司や先輩からコツを教えてもらうようなことも、全て言語化しなければならなくなります。そうすると、皆が公平に同じ仕事をできる機会が増えます。このように、いろいろなアイテムが揃ってきているので、女性はこれからもっと活躍しやすくなると思います。
【德岡】 これからの目標はありますか。
【和田】 三菱ケミカルには、人、社会、地球の心地よさがずっと続くことを表す「KAITEKI」という素晴らしいコンセプトがあります。KAITEKIの実現について、みんなで語り合い、納得して、誇りを持って仕事をできるような組織文化を醸成したいと思っています。
【德岡】 ただ単に与えられた仕事をするのではなく、会社の素晴らしいビジョンをどう実現していくかを、自発的に考えられる人づくりということでしょうか。
【和田】 はい。それともう1つ、そうは言っても、自分が何をすればいいかわからないまま会社にいる女性もいるのではないかと思います。そういう女性たちを応援し、後押しできればと思っています。
【德岡】 和田さんのようなメンター的な存在が会社の中にいるのは大きいと思いますね。最後に、後進のビジネスパーソンに向けて一言メッセージをお願いします。
【和田】 男女問わず、会社人生の中で、これから幾度となくチャレンジする機会が訪れると思います。新しいことをする時は、失敗しても基本的には許されるはずです。そういう時に、一生懸命やっている人の失敗を責める人はそうはいません。ですから、迷わずにチャレンジしてほしいと思います。
【德岡】 今後のさらなる活躍を期待しています。本日はありがとうございました。